才能で飯を食べたい (2005.3.5)

 ヒロシの自虐ネタに笑わず、「分かる、分かるよ」と思っている自分がいるとです!

 お笑い芸人でもっともうらやましいのは誰だろうか。私にとってはタモリと明石家さんまである。素のままの自分で、あれだけ面白いのだ。もちろん、テレビでそう言っているだけで、本当はものすごく努力しているのかもしれない。が、たぶん天賦の才能だろう。うらやましい。

 タモリ、さんまとくれば北野たけしである。が、たけしはお笑いをやっていた頃から猛烈に本を読み漁り、今ではすっかり文化人である。だから、本当にやりたかったのはそっちだろう。

 ヒロシはどうだろう。ホスト時代に愚痴を書き綴ったノートを友達に見られた。友達に大うけで、そこでお笑いネタにしてみた。そして今一世を風靡している。これまた、素のままの自分を出したらそれで飯を食えるわけだ。うらやましい。しかし、これは一発ネタだとも言える。何十年も続けていけるとは思えない。とは言うものの、デーモン小暮を初めて見た時だって、「このキャラで続けていけるわけがない」と思ったが、続いているからなあ。王子こと及川光博はデーモン小暮と自分自身について「続けていくことでしか報われない、そういうものだと思いますねえ」と言っていた。

 ダウンタウンの松っちゃんはどうだろう。松本人志は昔からおもしろい人であったらしい。「浜田は歌とかドラマとかもやりたい奴やねんけど、僕は全部お笑いに関係していないと嫌ですね」と言っていた。天賦の才能というより、お笑いを愛している。慢性的な不眠症で、30代まではキレやすかったようだ。たぶん、寝ずにネタを考えているということではないだろう。面白いことはぽんぽん浮かぶが、その代わりストレスも凄まじいのだろう。ガキの使いやあらへんで、の企画で、普段ダウンタウンが立つステージに山崎邦正が立たされ、お笑いをやらされるというものがあった。客席からの「寒い」の声に、彼は「寒い言うなあ! だったらお前らがやってみい!」と泣きながら逃げ去ったのだ。それくらい、悪夢のような緊張感に押しつぶされそうになる、恐ろしい場所なのだ。

 それは嫌だなあ。天賦の才能で飯を食いたい。しかも、凄まじいストレスなんかないのがいい。では、私にはどんな才能があるだろう? ない。

 小説を書くことは「好きである」から「好きだった」に変わりつつある。最後に書いたのがもう1年以上前だ。私が求めているのは、そういう才能ではない。それで飯を食うことができ、気合を入れたり、頑張ったり、無理をしたりしなくても身の内から自然に湧き出てくるもので、一生続けていけるものだ。

 ゲーム作りにもだんだん飽きてきた。ゲーム作りを飯の種にしようと思ったら、やっぱりゲームメーカーに入るしかないだろう。そしたらもう無理と苦労の塊だ。シェアウェアはどうか。シェアウェアで飯を食えるなんて、今時誰も思わないだろう。生活できるほど稼いだシェアウェアといったら、秀丸くらいしか思いつかない。第一ゲームじゃなくてツールだしね。シェアウェアで小遣いかせぎをすることを目指すくらいなら、コンビニでバイトした方がいい、というのが多くのフリーソフト作家に共通する考えではないか。

 今はエッセイに力を入れている。が、これは今たまたまあの世に興味を持っているからだ。それ以前は、3ヶ月に1回とか、半年に1回とか、気が向いた時だけ書いている。

 では、その間ずっと何も書いていなかったのかというとそういうわけでもなく、HSP講座を書いている。すると、書く事は好きであるらしい。ということはフリーライターか? 残念ながら、フリーライターはただ書いていればよいというわけにはいかない。自分で仕事をとってこなければならない。営業をしなければならないのだ。

 なんかうまい話は転がっていないのかね。ない。

 お笑い芸人とか小説家とかそういうんじゃない場合、好きなことを飯の種にしようと思ったら普通は資格を取るのだろう。で、ちょっと検索してみたらそうじゃなかったので驚いた。DISCOの「学生モニター調査」(2003年2月)によると、学生が今後取得したい資格はTOEICが圧倒的1位だ。回答者の約3分の1は、今後TOEICを受験しスコアアップをはかりたいと答えている。

 そんなに外国に行ったり、外資系企業に入ったりしたい人が多いのかというとそういうわけではない。就職活動時は「TOEICの点数を書くと筆記試験が免除になる企業もある」、「高得点だと有利に内定がもらえる」などのメリットがあり、また、会社に入ってからも昇進の条件になることもあるからだそうだ。外資系とかは関係なく、どの企業でもだ。

 計算高いね、最近の学生は。さすが情報の時代だ。私自身は学生の頃、資格を取りたいなんて全然思わなかった。まあ、私がぼーっとした奴であるだけかもしれないが。

 2位が簿記、3位が英検、4位が初級システムアドミニストレーターと続く。簿記やシスアドは仕事に関係している。が、私がイメージする「好きなことを仕事にするために取る資格」とはかけ離れている。私が想像したのは、WEBデザイナーになるためにそれ関係のスクールに通って資格を取るとか、そういうのである。調査対象が学生だからか?

 まあ、今は情報収集の時代だから、学生も資格なんて面接の時に役に立つか立たないか程度のものだと知っているのだろう。「資格を持っていると就職に有利か」という問いに対しては、「有利だと思う」が26%、「ないよりもあった方がよい」が67%、「関係ない」が7%で、圧倒的に「ないよりもあった方がよい」程度に考えている人が多いのだ。人事担当者が新卒学生を採用する際、資格はほとんど重視していないそうだ。学生もその辺のことは承知しているらしい。

 まあ要するに、「WEBデザイナーになりたい」とかじゃなくて、「コンピュータ関係の会社に入りたい」としか決まってない人の方が多いということだ。学生なんだから当たり前か。大学には「情報処理」という学科はあるが、「WEBデザイン」という学科はないのだ。

 そもそも、将来どうなりたいとか、夢とか、そういう人生の目標を持っている人の方が圧倒的に少ないのだ。

 また、資格なんて取ったところで、実際の仕事には役に立たないのだ。以下は平成16年度春期ソフトウェア開発技術者試験(午前)の問題の1つである。(KIKIの情報処理試験の部屋より)

 次の10進小数のうち、8進数に変換したときに有限小数になるものはどれ か。
 ア 0.3
 イ 0.4
 ウ 0.5
 エ 0.8

 なんと難しい問題だろうか。プログラミングを少しでもかじったことがある人であれば、こんな問題を解けても、実際のプログラミングではまったく役に立たないことが分かるだろう。しかし、この問題を作った人にとっては、これを約1分53秒で解けてこそ初めてソフトウェア開発技術者なのだ(午前の試験は150分80問)。

 答はウである。理由は書いてない。10進数の0.1は10の−1乗である。0.3は10の−1乗が3つ、0.4は10の−1乗が4つ、0.5は10の−1乗が5つ、0.8は10の−1乗が8つである。8進数の0.1は8の−1乗、つまり1/8である。10進数の0.5は4/8だから8の−1乗が4つ、つまり8進数では0.4と表せる。ウが有限小数であることを示せた時点でアとイとエについては検証してもしょうがない。そんなところか。が、これは4つのうち1つだけが正解であることを前提としている。本来なら他の3つについて、1/8、1/64(8の2乗分の1)、1/512(8の3乗分の1)、……を、いくらうまく組み合わせても有限小数では表せないことを検証しなければいけないのではないか。インチキじゃないか!

 理由まで考えてみた上であらためて断言するが、こんな問題が解けようが解けまいが、プログラミングをする際にはまったく支障がない!

 木曜にアンビリーバボーを見たら、アメリカ版ヒロシとでも言うべき人物が紹介されていた。ハービー・ピーカーという人だ。自分のダメっぷりを紙にたっぷり書き溜めていて、それを偶然出会った漫画家にマンガにしてもらい、自費出版するのだ。それから何年もたち、シャリ・スプリンガー・バーマンとロバート・プルチーニの監督・脚本によって映画化された。マンガもバカ売れに売れた。うらやましい。マンガ名も映画名も「アメリカン・スプレンダー」である。今インターネットでダメ人間の日記が大流行しているし、ヒロシが売れている。彼は先見の明があったのだ。

 昨日近所のビデオ屋に行ってみたが置いてなかった。今検索してみたら日本では現在上映中だった。置いてないわけだ。

 一文の得にもならない小説を書くことも、ただでゲームを作ることも、突き詰めて考えるとそのモチベーションは「好きだから」ということ以外にはないと思う。そういう人が、アメリカ版ヒロシのようにいつか報われるといいなと思う。うん、自分に向かって言ってるな。


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