自殺したら地獄行き!? (2005.3.19) | ||||||||
自殺者が3万人を超えている現在、避けては通れない話がある。「自殺したら地獄に堕ちる」という考えである。
どいつもこいつも自殺者に対してどうしてこんなに厳しいのだ! と言いたくなる。タイムマシンでダンテと源信の所に行き、太宰治の「人間失格」と芥川龍之介の「或る阿呆の一生」を渡し、「読め」と言いたい。いじめっ子達から毎日何万円も取られ続けた大河内清輝君も、アキレス腱切断や椎間板ヘルニアで走れなくなったマラソン選手、円谷幸吉も彼らにとっては地獄行きなのだ。 あの世がないのであればこんなのは全然気にしなくていい。たとえあったとしても、気にしても仕方がないのだ。なぜなら、「自殺したら地獄行き」というのを気にするのであれば、虫を殺したら地獄行き、嘘をついたら地獄行き、というのまで気にしなければならないはずだ。悪いことを考えても、女を騙しても、こびへつらっても、キリストを信仰していなくても地獄行きである。 するとどっちみち地獄行きだから、教会に行くなり念仏を唱えるなりして神様仏様に救ってもらうしかないことになってしまう。前に往生要集の臨終行儀について書いたが、念仏を唱えても阿弥陀仏が浄土に連れていくために迎えに来る姿を見ることができなければ地獄行きなのだ。 自殺の場合だけを気にしても仕方がない。 キリスト教や仏教のあの世が、古代神話がベースになっていると知れば信憑性は限りなくゼロに近づく。古事記で語られるスサノオのヤマタノオロチ退治や、日本書紀の天地創造の話を、誰が本当にあった話だと思うだろう。丹波哲郎の説もだいたい似たようなものだ。 すると気になるのは自殺未遂者の臨死体験だ。問題なのは、大半の自殺未遂者がこのような臨死体験をしたのか、ごく少数なのに大きく取り上げられているのかだ。残念ながら検索しても分からなかったが、私は後者だと思う。もし多くの自殺未遂者が地獄を見たのであれば、どうして立花隆はこれを大きく取り上げないのだろう。ちなみに臨死体験研究者ケネス・リングによると、自殺未遂者で臨死体験をした人は少ないという。 私はこれこそ臨死体験が脳内現象である根拠の1つだと思う。臨死体験は幻覚だから内容はその人の心情が影響する。もしも現実体験であるならば、嘘をついた人や虫を殺した人も地獄を見なければならないはずだ。臨死体験者の証言を信じるならば、自殺者だけが地獄に堕ちることになってしまい理不尽である。 だから安心して死になさいと言うつもりは毛頭ない。問題なのは、自殺したら地獄行きだから嫌々ながら仕方なく生きるというのが、人生を歩むためのモチベーションとなってしまうことである。それだったら鶴見済や柳美里などの自殺肯定者達が言うように、自殺という選択肢を残したまま生きる方がよほどましではないだろうか。どんなに苦しくても悲しくても死んではいけないと思ったら、すごく生きづらいのではないか。借金で首が回らなくなっても、癌であと3ヶ月の命だと宣告されても生きなければならないのである。極端な話、回復の見込みがない重病の人も「どうか私を安楽死させないで下さい。無駄に苦しみを長引かせるだけの延命処置をほどこして下さい」と頼まなければならないのだ。安楽死させて下さいと頼んだらそれは自殺である。 嫌々ながらしょうがなく生きるんだったら、警察の目をかいくぐりながら悪徳商法で儲け、海外逃亡して楽しく暮らす方がまだいいのではないか。なぜならその人は楽しむことが目的なのであって、よほど人生を大切にしていると言える。 自殺を抑制するためのサイトを作ったり、人生相談に乗ったりする自殺否定者達は納得のいく理由を提示できない。「親が悲しむから」、「生きていればそのうち良い事がある」、「妻や子供が路頭に迷う」、「いろいろな人に迷惑がかかる」といったところだろうか。死にたいほど悩んでいる人は自分のことだけで精一杯である。他の人のことまで思いやれと言うのは酷である。また、今までいい事なんかなかったから死にたがるのである。 自殺否定者達は役に立つどころか逆効果である。彼らは「天邪鬼(あまのじゃく)効果」という心理学の言葉を知らないのだろうか。小さい子供に「このイチゴは食べちゃだめよ。絶対食べちゃだめよ」と言えば言うほど食べたくなるのだ。だから「自殺するな」としつこく言ってはならない。また、抑鬱状態の人に叱咤激励するとかえって良くないというのも、それ関係の本を読まなくても今ではテレビでも時々紹介される。頑張って消耗した人に「頑張れ」と言えば余計に疲れきってしまうのだ。 ましてや「自殺する奴は身勝手だ」とか「楽な道を選ぼうとする卑怯者だ」という意見になるともう訳が分からない。 素人がカウンセラーの真似事などするとかえって相手の状態を悪くしてしまうのだ。まあ、もちろん自殺志願者の方から「どうしたらいいと思う?」と相談されたり、今まさに飛び降りようとしている人間が目の前にいる場合は仕方ないが。 |