ムーディと丹波哲郎と地獄 (2005.5.6)

 あの世について調べ始めてからもう半年が経つ。で、現時点での結果はどうかというと、一般の人々が持っている天国や地獄のイメージは、古代神話がベースになっているので、信憑性は限りなくゼロに近いことが分かった。現在のあの世研究を知るには、臨死体験研究を参考にするのが一番いい。で、これには脳内現象説と現実体験説があり、たいていのことはこじつけながらも脳内現象で説明できることを知った。たとえ現実体験だったとしても、みんな安らぎの世界に行っているので安心だ。と、思った途端に自殺者だけは地獄を連想させる世界に行くという説が出てきた。殺人や盗みを犯した者も地獄に行くかもしれないが、犯罪者の臨死体験事例がないため、今のところ地獄の様子を知る手がかりは自殺未遂者の臨死体験だけである。と、まあ、こんな感じだ。

 霊界研究をもう50年もやっていて、日本の霊界研究の第一人者である丹波哲郎はこれについてどう言っているだろうか。丹波哲郎のサイトに、自殺未遂者の臨死体験について書かれている。

  • 1975年4月、アメリカ、インディア州ゲーリーの22歳の女性は自動車もろとも崖から飛び降り自殺をした。彼女は真っ暗な地下道のような所にいて、冷たい手や蛇のようなものが体にまとわりつくのを感じた。着いた先にはもがき苦しむ死人が大勢いて、父や母の悲しむ顔が深い穴の底に見えた。
  • 「かいまみた死後の世界」の著者レイモンド・ムーディによると、自殺未遂者の臨死体験は、死に近い状態が数時間なのに、本人には何週間あるいは何年間にも相当する長さに感じられ、一人ぼっちで闇の中にいるような、どうしようもなく淋しい気持ちになるという。
  • 「死の扉の彼方」の著者モーリス・ローリングス博士の報告によると、「これは地獄だ」と思わざるを得ない体験をした人々は、蘇生後はまるで人が変ったように、真に人間らしく生きるようになるそうだ。

 もっと具体的に知るには、「かいまみた死後の世界」、「死の扉の彼方」を読む必要がありそうだ。が、「死の扉の彼方」は現在絶版になっているようだ。で、ムーディの「かいまみた死後の世界」、「続 かいまみた死後の世界」を読んだ。

  • 自殺は実に不幸な行為であり、厳しい罰を受けるという暗示を受けた。
  • 自殺と殺人の二つの行為だけは、決してやってはならないという気持ちになった。
  • 自殺者に与えられる罰の一つは、自分が自殺したことによって他の人が苦しむのを見、実感することである。
  • 自分の企てた自殺は、なんら問題の解決にならなかったばかりか、自らの生命を断つことによって無縁となるはずであった、その同じ問題に直面させられる。繰り返し繰り返し目前に再現され、ああ終わったと思うと、またはじめから同じことが繰り返される。

 これが自殺未遂者の臨死体験である。非常にあいまいである。事故や病気で臨死体験をした人の証言は、やれ光の存在がいて自分の人生をパノラマ回顧しただの、お花畑に川があってその向こうに死んだお婆ちゃんがいただの、具体的なものなのに、自殺者の臨死体験はたったこれだけである。

 それと、丹波哲郎が書いているムーディの言葉は、どうも「かいまみた〜」ではなく他の本に書いたか、言ったかしたものらしく、見つけることはできなかった。

 臨死体験は幻覚に過ぎないとすると、これはどう考えられるだろうか。有栖さん鷹さんの体験談を読むと、幻覚の中での時間は実際の経過時間よりだいぶ長いようだ。お二人ともレム睡眠時の幻覚と考えられるが、レム睡眠の持続時間は5分とか10分といった短い時間である。お二人の言う通り、レム睡眠時の幻覚は夢よりも覚醒度が高いだけだとすると、自分の夢を考えると分かる。夢の中の出来事は、何時間も経っているように感じる。夢の中で何日も経つ人もいるだろう。何かの問題を抱えている時、それと同じ夢を何度も見ることはないだろうか。

 自殺未遂者は臨死体験をまったくしないか、部分的にしか体験しない人が多いそうだ。真っ暗な世界については、トンネル体験しかしていないとも考えられる。事故や病気の場合真っ暗な世界を抜けて光に満ちたとても気持ちのよい世界に出る。これは脳内物質エンドルフィンによるものだという説がある。死ぬまではもがき苦しむが、死ぬ瞬間には苦痛をやわらげるために脳内に快楽物質が大量に放出されるというのだ。自殺者は鬱状態にあるので快楽物質が出にくいとも考えられる。そのために気持ちのいい光の世界を体験しない。少なくとも鬱状態になると意欲を高めるノルアドレナリン、不安を抑えるセロトニンが脳内に不足することはよく知られている。また、性的に興奮したり運動したりするとエンドルフィンが出ることもよく知られている。鬱状態の人は性欲も減退し運動もしなくなるので、エンドルフィンが出にくいのではないかとも考えられる。

 自殺してもさっぱりした気分で死ねば光の世界に行くという説がある。逆に、事故や病気でもネガティブな感情で死ねば闇の世界に行くという。その人が歩んできた人生とは関係なく、死んだ時の気分によって行く場所が決まるのであれば、それこそ幻覚だと考えた方が合理的ではないだろうか。


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