「スベテク君……スベテク君……」 誰だ、君は。 「私は"先住民"だ。君達がいる星は、元々私達のものだ。もうそろそろ返してほしいのだ」 待ってくれ、何のことだ。 「君達人類に立ち退いてほしいのだ。どうしても無理だというのなら、実力を行使するしかない」 「で、同じ夢を何度も見るのですね?」 モトフ医師は、ゾア大統領スベテクに言った。 「ああ、おかげで最近はよく眠れなくてね」 スベテクの顔色はよくなかった。 「お疲れなのでしょう。少し休みをとられてはいかがですか?」 恒星エンゲルスは三つの惑星――メイス、ゾア、ゴア――を持つ。そのうち唯一生命が生きていける場所が、惑星ゾアだ。 人類が地球を放棄し、ゾアにたどりついてから二百年にもなる。 しかし、人類がゾアに到着した時、先住民がいたという記録は、どこにもなかった。 「やはり単なる夢なのだろう」 と思ったスベテクだったが、そうではないということが、一週間後に分かった。 ゾア暦二一二年五月十日、大統領執務室のラジオが急に鳴りだした。 「大統領、聞こえるかね。私だよ」 それは、夢の中で聞いたのと同じ声だった。 「なんだ! 一体どうなっているんだ!」 「私は君に何度も呼びかけたが、君は何もしてくれようとはしなかった。だからこうして、夢ではなく実際に呼びかけているのだ」 「嘘だ! 誰かのいたずらだ!」 副大統領バーニンが叫んだ。 「いたずらではない。その証拠に、これと同じ内容が全人類に"放送"されているのだ」 警備兵が飛び込んできた。 「大統領、大変です。ゾア中に大パニックが起こっています。なんでも、頭の中で奇妙な声がする、と」 スベテクは眉根を寄せた。 「私達はある場所に爆弾を仕掛けた。それは君達人類全員を滅ぼすのに十分な威力をもつ。そしてそれは今から三ヶ月後に爆発する。君達は今から大急ぎで宇宙船を作り、ゾアから逃げるのだ」 スベテクは額の汗をぬぐいながら言った。 「君達は一体何者だ。なぜいきなり、我々に出ていけなどと言うのだ」 「言ったろう、私達は"先住民"だ。私達は、君達の想像をはるかに超えた存在だ。だが、絶滅しかかっている。どうしても、早急にゾアを返してもらう必要があるのだ。しかし、それでも君達が出ていかなかった場合、爆発は起こるだろう。ゾアも失うことになるが、その時は、もともと私達に返されるものではなかったものとしてあきらめる。君達がいくら爆弾を探しても無駄だろうが、ヒントだけは出しておいてやろう。それはとても大きく、よく目につく場所にある。次の通信は一ヶ月後に行う。それまでによく考えておくことだ」 その日から軍隊を総動員しての爆弾探しが始まった。軍隊だけでなく、人民が隅々まで爆弾を探し回った。しかし、ジャングルの奥や高山の頂上まで探し回ったにもかかわらず、爆弾は見つからなかった。金属探知機や超音波や潜水艦を使って、地中や海中も探し回ったがだめだった。そうこうするうちに一ヶ月はあっという間にたった。 「どうだ。見つからなかっただろう」 「本当に爆弾などあるのか? おどしにすぎないのではないのか?」 「爆弾はある! ただ君達には絶対見つけられない」 スベテクは爪をかんだ。 「人類がゾアにやって来た時、そこには誰もいなかった。君達は何者だ?」 「霧が出ていただろう」 「霧?」 「そう、それが私達だったのだ」 人類が初めにゾアに降り立った時、ひどい濃霧におおわれていた。だが人類はその科学力によって気象を改善し、霧を晴らしていったのだった。 まさかそれが宇宙人だったなどと、誰が想像できただろう。地球人はそうとは知らず、彼らを殺し、追い出していたのだ。 「では第二のヒントを与えよう。爆弾は地下や水の中にはない」 地下と水中の探索が打ち切られた。地上の捜査は続けられたが、一向に爆弾は見つからない。 宇宙船の建造も並行して急ピッチで進められていた。 さらに一ヶ月が過ぎた。 「これが、最後の通信だ。爆弾が爆発する正確な時刻を教えよう。それは八月十日、午後十二時ちょうどだ」 「これだけ探してもなかったんだ。爆弾など本当はないんだろう」 「疑い深い人だ。では最後のヒントを与えよう。爆弾は、とても暑い所にある」 探索は、赤道近辺に限定された。しかし、やはり見つからない。 「爆弾など本当はないんだ」 という考えが人々の間に浸透していき、探索も、宇宙船の建造も打ち切られた。 八月十日、十一時五十九分三十秒、科学技術庁長官、ギムナエルが、庭を散歩していたスベテクにとびついた。 「ありました! ありました!」 「どうしたんだね。そんなに慌てて」 「観察してたんです! それで分かったんです!」 「落ちつきたまえ。爆弾ならないよ」 「いいえ、あります。爆弾はあそこです!」 だが、もはや手遅れだった。 "爆弾"の中心部で起こった小さな核融合反応の異常は、連鎖反応を起こし、ついに最終段階に達した。 ギムナエルが指さすその指先が、真っ白な光に包まれていった。 恒星エンゲルスは大爆発を起こし、その周りを巡る三つの惑星を道連れにした。 |