真っ暗なトンネルの中、美少女がニッコリ微笑み、次の瞬間私の首にガブリとかみついた。
 ……ああ、あれが夢であってくれたなら。
 しかし首根っこに手を当てると、鮮やかに二つの傷が残っているのだった。
 パパラ、パパラ、パパラ。
 悶々とする私の耳に、今夜もまた暴走族がまき散らす騒音が響く。
「うるさい!」
 ああ、イライラする。ああ、血が欲しい。しかしそれだけはやってはいけない。他の人間を私のような吸血鬼にしてはいけない。
 それから一ヶ月、私は肉やレバーや、血になりそうなものをむさぼり食った。しかしそれは気休めにしかならず、食っても食ってもどんどん痩せ衰えていくのだった。
 ある時鏡に向かい、ベロリと舌を出した私は愕然とした。あまりにも血が減りすぎると、人の舌は真っ白に変色するのだ。
 もはや恥も外聞もない。私は犬猫を打ち殺して血をすすったり、女子トイレに忍び込んで生理用品をなめることまでした。
 しかしそのような私の努力は、全てむなしく徒労に終わった。
「あ、ああ……」
 もはや最後の手段に訴えるしかない。「輸血」という手段にしか!
 黒の革ジャン、黒のズボン、黒の革靴。私は全身を「黒」でまとい、頭からスッポリと黒いマスクをかぶり、ヨロヨロと道路に歩み出た。真っ暗闇の中、私の姿は簡単には識別できまい。
 パパラ、パパラ、パパラ。
 今夜もまた暴走行為にふける若者達が出す騒音が、私の耳に近づいてくる。
 私は両腕を広げ、猛スピードで突っ込んでくるオートバイの群れを迎え入れた。

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