おい、パービス、何をやっとるか! 第三エンジンの出力が落ちとるぞ! 針路が二度も右にずれとるじゃないか!
 まったく何をやっとるんだ。能無しどもが!
 え? 緊急の報告だって? 何を言っとるんだパービス! 早く第三エンジンを見に行け!
 なに? チャーリーが行ったって? だったらお前も持ち場に戻れ!
 え? 地球から通信が届いただと? 評議会の決定だあ? フン、あのくそいまいましい委員会め。どうせまたわしを退任させるとでも言っとるのだろう!
 その通りだと!?
 わしが人類の科学の発展に、どれだけ寄与してきたか、お前達には分からんのか!
 例えば軌道エレベータはどうだ。えっ? 知らないって? 地上から静止衛星軌道にまで登る、エレベータだよ! そのおかげで地球の重力から脱出するために、大量の推進剤を積まなくても、宇宙船が飛ばせるようになったんじゃないか! お前だってこの宇宙船に乗る時に昇っただろうが! あれだってダイアモンドのホイスカーよりも強い材料をわしが考えつかなければ、とうてい実現できなかったんじゃぞ!
 この恒星間ラムジェット船、「スタラクタイト」号にしたって、わしの尽力がなければ到底作れなかったものだぞ! お前達みんなが太陽系の外に出ていけるようになったのも、わしのおかげなんだぞ!
 それにわしの指揮がなければ、とうてい宇宙探索などできるものか! 
 それを辞めさせるだと!? 冗談も休み休みに言え!
 なに? もうそろそろ昼飯の時間だと!? 水素タンクの分析はどうなってるんだ? 最近になって水素の取り込み量が減っとるだろうが!
 馬鹿者! 手の空いているやつは全員水素タンクの調査に回れ! お前達みんな飯抜きだ!
 なんだ、その顔は。
 どうしてこんな危険を冒してまで宇宙探索などするのか、だと? 安全な宇宙飛行ができるようになるまで、あと二十年はかかるはずだ、だと? パービス、お前も言うようになったもんだなあ。
 そのためにわしがいるんだよ! あらゆる困難はわしが解決してみせる。お前達の役目は自分の命を犠牲にしてもわしを守ることなんだよ!
 超人類は失敗だった、だと!? 遺伝子工学の敗北だと!? 冗談じゃない! 失敗作はお前達の方ではないか! 人類は神の失敗作だ!
 え? 人類は超人類の奴隷になっただと? 当たり前ではないか。完全であるわしが、失敗作であるお前たちをこき使って、どこが悪い!
 パービス、わしに刃向かうつもりか! 馬鹿者が。こうしてくれるわ!
 アッハッハッ! ピンポン玉のように吹っ飛んでいきよったわ。わしに一歩でも近づけると思うなよ!
 馬鹿め! ハリーもチャーリーも、能足りんもいいとこだ! わしの五メートル以内に近づけるとでも思っているのか!
 ほう、威勢のいいのが一匹来よったわ。
 スタルコフ、お前の馬鹿力は認めてやるが、頭はカラッポだ。ほらほら、足がだんだん進まなくなってきたぞ。まるで蟻地獄から抜け出そうとする蟻のようじゃ。アッハッハッ!
 こら、こら。お前も早く吹っ飛べ! あっ、何をする! そのスイッチに触れるな! 勝手にパネルを開けるな! 勝手に配線を引きちぎるんじゃない!
 後悔するぞ。わしがいなくなった後の人類に何ができる! 文明が二世紀は後退するぞ! 分かったか! 分かったら返事をしろ!


 宇宙船「スタラクタイト」号の屋根が開いて、マーマレイドの瓶を特別大きくしたようなカプセルが放り出された。カプセル内部と、外の真空の圧力の差のために、カプセルは粉々にくだけ散った。
 中の生理食塩水が、宇宙空間にばらまかれた。

 小山ほどもある巨大な脳が、ケンタウルス座アルファ星の、燃えたぎる灼熱地獄の中へ、ゆっくりと落ちていった。

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