これは、吸血鬼が実在するある街でのお話です。

 女はコツコツと靴音を響かせながら、凍るような月の光を受けながら歩いていく。
「待てっ!」
 一人の男が走ってきて、彼女の肩をつかむ。
「見つけたぞ、このドラキュラ女!」
 男の目は怒りに燃えていた。
「なんのことかしら?」
「とぼけても無駄だ!」
 男は一本の電柱を指さした。そこにはこのような貼り紙が。
「この女、吸血鬼につき、要注意」
 そしてその文字の下には、女の写真がデカデカと写っているのだった。
 女の眉がつり上がる。
「どうしたんですか」と言いながら、警官が走り寄ってくる。「あっ、お前は」
「何言ってるのよ、あなた達。」
 男は大声で怒鳴った。
「まだとぼけるのか。だったら証拠を見せろ。お前の首には他の吸血鬼にかまれた痕があるはずだ!」
「まったく、何なのよ」
 女は服の襟をぐいと引っ張った。しかし、そこには何の傷痕もなかった。
 いきなり男が女にとびかかり、首すじに噛みついた。
「キャアッ!」


 気絶した女を見ながら、男はつぶやく。
「フウッ。最近じゃこんな小細工でもしなきゃ、人間の血が吸えなくなっちまったな」
 警官は、「じゃ、次、お前警官の役」と言いながら、ベリッと電柱の貼り紙を引きはがした。

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