窓を閉め切っているにもかかわらず、激しい風の音が聞こえている。三人の男達はテーブルを囲み、各々の考えにふけっていた。
 W大学ミステリ同好会のメンバーは、雪山のペンションに来ていた。日中はスキーを楽しみ、夜はミステリ談義に花を咲かせる予定だった。それが、このような惨劇に変わるとは、誰が予想できただろうか。
 猛吹雪に閉ざされ、密室状態と化したペンションで起こった連続殺人事件。
 一体誰が犯人なのか?
 その難問に、己の全知能を注いでいた。三人のうち二人は。
「だから、俺が犯人だって!」
 吉沢は大声をあげた。
 木戸は、チラッと吉沢を見て言った。
「吉沢が犯人なわけ、ないよなあ」
 それに答えて、親指で眼鏡をずり上げながら、北野が言った。
「ああ、あり得ないね」
「江頭を殺すことができたのは、涼子だけだな」
 木戸は、あごの無精ひげをなで回した。
「しかし、涼子には一時から三時までの間に完璧なアリバイがある。それをどう考える?」
 北野は、それが癖であるかのように、親指で眼鏡をずり上げた。
「だから! 江頭を殺したのも俺だよ! 俺は江頭を殺した後すぐに江頭を二階から一階のトイレに移した。お前達は俺のトリックにまんまとだまされたんだよ!」
 吉沢はわめいた。だが、あとの二人は極めて冷静だった。
「ペンションの主人、つまり伊藤氏はどうだ」
 木戸は、吸いかけの煙草を灰皿に押しつけた。
「なるほど、最初に殺された人物が実は犯人ってパターンか。しかし、伊藤氏が死んでいたことは、あの時ちゃんと確認したはずじゃないか」
 北野は、ストーブの方を見ながら言った。ぼうっ、ぼうっという音が、もうすぐ石油がきれそうなことを物語っていた。
「やはり、吉沢にしか不可能か」
「そう! そうだよ北野。分かってくれたか」
 北野は吉沢を見て、言った。
「しかし、この状況じゃあ、なあ」


 木戸も、北野もだいぶ疲れている様子だ。しかし、それ以上に吉沢は疲れきっていた。
 こいつらはどうして分からないのだ。俺がやったって言ってるのに。
 完全犯罪を成し遂げたものの、猛烈な罪の意識が襲い、白状する気になったのだ。しかし、こいつらはあくまでも論理的に犯人を決めようとする。まるで、自白による解決などというものは絶対に認めないと言わんばかりに。
 木戸は、もう寝たいという眼をしながら言った。
「俺と北野にはアリバイがある。それは確かだ」
 北野も、指にはさんだ煙草に火をつけようともせずに言った。
「全員が死んで、犯人はどこかに消えてしまったって場合、やっぱり探偵はこう考えるんだろうな。真犯人が他の人間を殺して、最後に自殺してしまったって」
 木戸はしかめっ面をした。
「シンプルだな。しかしその最後に死んだやつが、とても自殺とは思えないからな」
 北野はうんうんとうなずいた。
「こんなこと、自分でできるわけないよな」
「自分でやったんだよ!」
 吉沢は興奮して立ち上がった。
「お前達、なぜ俺を見ようとしない。なぜ俺を無視する! お前達には、俺の言葉が聞こえてないのかっ!」
 今度は、二人同時に吉沢を見た。

 床の上に横向きに倒れ、背中に深々とナイフをつきさして息絶えている、吉沢の姿を。

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