手品師っていいな (2003.10.22)

 ふわふわと降りてくるしゃぼん玉を、目の前で止める。それだけでなく、みるみるうちに縮める。ミスター・マリックは、すごい。いやその手品をやっている時には別の名前だったが。彼がうらやましい。内向的な少年が手品に出会う。やがて就職するが、職場でも黙ったままである。これじゃいかんと思った彼は、大好きなマジックの世界に飛び込み、超一流のマジシャンに成長していくのである。まるでアメリカンドリームではないか。マリックに限らず、好きな事をやって成功した人はうらやましい。自分は書くことを好むが、毎日一日中書けるほど好きかというと、そうでもない。つまり、趣味を仕事にして飯を食おうと思ったら、極端さが必要なのだ。マリックはその見事な手さばきを覚えるために、ボールを一日中握っていたそうだ。誰にもばれなければ、一流だと。

 テレビゲームをすることも、仕事になる。ゲームメーカーのテストプレイヤーである。そのかわりトイレの窓から逃げ出したくなるほどやらされるのだそうだ。そう、極端なのだ。

 自分が手品師になるとしたら、二代目引田天巧とミスター・マリックと、どちらがいいかと言うと、マリックである。引田天巧が女性なので、自分はなりようがないとか、そういう事ではない。恐ろしい人が部屋にコインを置いていくから、という事でもない。第一私が男であるなどとは、どこにも書いていない。あたかも男性のような書き方をしているが、実は女かもしれない。と書くと女性のようだが、やっぱり男かもしれない。と書くと男のようだが……。私は自分の個人情報を、ネットワーク上に公開したくないのだ。性別でさえ。一代目は男である。が、私は初代のことをよく知らない。何かの特集番組で、彼の大脱出マジックのネタばらしをやっているのを見たことがあるくらいだ。プリンセス天巧は、先代の模倣をしなかった。大変偉いことである。引田天功の名を継ぎながら、「なんとかーファイヤー」とか、そういう独自のキャラを作った。いやひょっとすると初代も「どうたらーファイヤー」とか、やっていたのかもしれないが、よく知らない。

 引田天功はものすごく儲けている。彼女がテレビでマジックを披露することはほとんどないが、舞台と練習で全然休みがない。マリックはその風貌とすばらしい手品から儲けているように見えるが、どうもそうでもないような気がする。彼が舞台で手品をやっているという話は聞いたことがない。するとテレビでの活躍だけということになるが、彼はレギュラーを持っているわけでもない。

 それでも、自分がなるとしたらマリックの方がいいのである。天功のマジックは大掛かりな装置を使う。マリックはそうでもない。彼は「ハンドパワーです」と言うが、「なんとかファイヤー」とも言わなければ、踊りもしない。ということはだ。プリンセス天功はどういう経緯で先代に弟子入りしたのか分からない。彼女は最初歌手で、手品をしながら歌うのが嫌で−−兼業という意味ではなく、そういう振り付けなのである−−二曲目から普通の歌手となった。ミスター・マリックは少年時代から手品が好きで、夢を実現させた。だからマリックの方がいいのだ、とかいう格好いい事を言いたかったのだが、単に派手なのが嫌なだけのようだ。ついでに言えば、舞台と練習で休みがないのも嫌だ。

 最近トリックが大人気である。次々に手品のネタばらしをやり、ついでに事件も解決してしまうドラマである。あれは好きだなあ。トリック1から見ていた。近頃ではお笑いとホラーとミステリーの要素を含んだ独自の雰囲気のドラマだと紹介されている。が、お笑いについては面白かったのは最初のうちだけである。2以降どんどん鼻につくようになった。

 私は小学生の頃手品が好きだった。とは言っても凡人であるからして、周りのみんなと同程度に興味があった。このように書くと私は子供ではないかのようだが、実は小学生かもしれない。

 私がシャーロック・ホームズや江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを好きだったことは前にも書いた。それは、手品のような要素が入っていたからかもしれない。今の推理小説に興味が持てないのは、松本清帳以降ミステリー全体が社会派に移行していったから、というよりも、奇術を見ているような感覚を味わえなくなったからかとも思う。

 カードマジックはそれほどびっくりしない。ちょっと油断すると、いつの間にかなんだかすごい事が起こっている。下手に他のことを考えたりすると、「えっ、何がどうなったの?」という状態になってしまう。見る方も気合を入れなければならない。というより、プログラミングしたりこういうのを書いたりしながらテレビを見るべきではないのだが。やはり、ぱっと見て「おおすげえ」と思えるものがいい。手品に限らず、各種のエンターテイメントは、新鮮な驚きを与え続けてほしいものだ。

 などと考えつつ、次回のトリックを楽しみにしている、小市民の私である。


[目次へ][前へ][次へ] inserted by FC2 system