幽霊目撃談は全部嘘なのか? (2005.1.17)

 幽霊目撃談は全部嘘か錯覚か幻覚なのだろうか。それとも、ほとんどはそうだが、少しぐらいは本物があるのだろうか。

 前に、「私が死後生があると信じようと思ったら、自分自身が幽霊を目撃しなければ無理だろう。しかもそれは夢でも幻覚でもなく、現実だと思えるものでなければだめだ」と書いた。そういう経験が全然ないかといえば、そうでもない。ただし、それらはとうてい現実だと確信できるようなものではなかった。

 一つは、私が小学生の頃のことだ。集団登校で学校に行く途中の道で、何もない空中にいきなり人間の腕が突き出したのだ。といってもリアルな腕ではなく、真っ白な光の塊(かたまり)だった。だいぶ離れた位置だったので、小さく見えた。高さは、たぶん私の顔くらいの位置だったと思う。ほんの一瞬のことだった。はっきり見たという感じではなく、今でもあれは気のせいだったと思っている。まばたきをした瞬間にまぶたの裏にうつった日の光だったのか。

 周りの連中はそんなものは見ていないという。とにかく、とうてい「確かに見た」と言えるようなものではなかった。私はこの時の不思議な体験を元にして、「過去を映す鏡」というショートショートを書いた。

 二つ目は今から8、9年前くらい、小説を書き始める少し前の話だ。朝の7時頃だった。ベッドの脇に見知らぬ女性が立っていた。意識はぼんやりしていた。髪は黒くて長く、白い服を着ていた。特徴は、その程度にしか覚えていない。年齢はどのくらいか、どんな顔か、足はあったのか、ぼうっと見えたのかはっきり見えたのか、分からない。なぜなら、それを見たのは1秒か、2秒か、とても短い時間だったからだ。

 次の瞬間私は覚醒した。夢だったのか本当だったのか、分からない。人は、寝てから90分間隔でレム睡眠の状態になるという。つまり、浅い眠りだ。その時に夢を見る。だから7時間半後、起きる直前の時間帯にもレム睡眠になる。この時頭は半分起きていて体は寝ている状態になる。そのせいで金縛りを体験したり幽霊(幻覚)を見たりするという。ちょうど、私の場合に当てはまる。

 意識がはっきりした直後は現実としか考えられなかったものが、5秒、10秒と経つに従って、ああ、やっぱり夢だったのだなあと思えるようになってきた。夢を見た直後に起きた経験がある人には、この感覚は分かってもらえると思う。しかしあまりにも不気味な内容だったので、今でもひょっとしたら本物だったのかもしれないと思う。なにしろ長い髪の女性という、典型的な幽霊像だ。逆に言えば、そういう幽霊だったら本にもテレビにもしょっちゅう出てくるので、そのイメージが刷り込まれていて夢に出たのかもしれない。

 実は、今のようにあの世について一生懸命調べた時期がある。それがその時だ。私はすっかりビビッてしまい、霊の存在や死後生について何冊か本を読んだ。そのため、私の小説には時々宗教についての記述が出てくる。ちなみにプロフィールに好きな漫画として手塚治虫のブッダを挙げているが、その時読んだものである。

 三つ目は−−これが最後だが、最近の話である。すっかり夜更かししてしまい、夜中の2時頃に歯を磨くために鏡の前に立った。昔だったら夜中の2時に鏡を見るなんてことは絶対にできなかった。死後の自分が映るとか、不気味なことが言われているからだ。今は全然平気だ。まあ、それもこの体験をするまでだが。

 歯ブラシを口に突っ込んだ時、頭の後ろを小さな丸い光がすっと通り過ぎたような気がした。慌てて振り向いたが、何もない。直径は3センチほどだったか。白、というより明るいオレンジ色だった。何かの光の反射なのかもしれない。気のせいかもしれない。

 とにかく、ぞっとした。そして今こうして再びあの世について調べるはめになったというわけだ。

 私の心霊体験なんてこの程度のものである。とうてい本物だと断言できるものではない。おそらく、それすら「どうせ嘘だろ」としか思ってもらえないと思う。お察しの通り、全部嘘である。この程度の体験さえ、私にはない。まあ、大半の人は同じだと思うが。何が言いたいかというと、「こんな話だったらいくらでも作れる」ということだ。


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